夕食を食べ終えてから2時間は経っていたが、杏梨は部屋の中をうろうろと歩き回って落ち着かなかった。


今日は最悪な日だったな……。

ゆきちゃん、今何している?

ゆきちゃんの部屋に行きたい……でも……。


思い切って雪哉の部屋に行こうか杏梨は葛藤中だ。


彩さんはどんどんゆきちゃんにアプローチしてくる。


杏梨の心は不安だらけだ。


男の人ならあんなにきれいな人から好意をもたれたら悪い気はしない。


杏梨はグッと唇を噛んだ。


そして決心もつかないままドアノブに手をかけていた。




雪哉はベッドに仰向けになり、雑誌をパラパラめくっていた。


まずかったな……。


雑誌を読んでいたはずが、いつの間にかさっきの出来事を考えてしまっていた。


あの後、何事も無かったかのように食事を始めた。

杏梨はいつもよりも明るく振舞っているのが痛いくらいに分かった。

内心は彩の事が気にかかっているに違いない。


トントン……


物思いはドアをノックする音で中断された。


空耳かと思った時、もう一度躊躇(ためら)いがちにドアがノックされた。


雪哉はベッドから降りるとドアを開けに行った。


「杏梨、どうした?」


「あのね……一緒に寝て欲しいの……」


やはり躊躇いがちに言う。


抱きしめられながら眠り、不安を拭い去りたかった。


「おいで」


手を差し出すと両手を組んでいた手が外されて雪哉の手に触れた。


ベッドのダウンライトだけが点いていて、部屋の中は本が読めるくらいの明る
い程度。


仕事をしていたのではないようなので杏梨はホッとした。


「ベッドに入って」


夏の薄い上掛けをはいで杏梨を先に寝かせると自分も杏梨の横に横たわる。