「お帰りなさい」


うれしそうな顔で出迎えた杏梨の頬に雪哉は腰を屈めてキスを落とす。


タバコの匂いと香水の香りがした。


思わず杏梨は顔をしかめる。


「タバコくさい」


「え?あぁ 会場は禁煙じゃなかったからな」


たしかにタバコの匂いが鼻につく。


「お水飲む?」


ジャケットを脱いでいる雪哉に杏梨は立ち上がると聞いた。


「いや、シャワーを浴びてくるよ」


そう言うとバスルームへ行ってしまった。


立ち上がった杏梨はもう一度ソファーに腰をかけた。


遅い時間だったけどゆきちゃんが出てくるのを待っていた。




「まだいたのか」


ソファーに座っている杏梨を見て雪哉は顔をしかめた。


雪哉は顔をしかめたが、杏梨はタオルで髪を拭いている雪哉の姿に心臓がトクンと跳ねた。


上半身は裸だったからだ。


「ゆ、ゆきちゃん 何か着てよっ!」


急いで顔を逸(そ)らした。


着やせする身体だけどしなやかな筋肉が付いていて杏梨の脳裏から消えてくれない。


「杏梨、照れてるの?」


真っ白なふかふかのタオルを首に巻いたまま杏梨の隣に座る。


「ゆきちゃんっ!」


顔は真っ赤でゆでだこ状態。


爽やかな石鹸の香りをまとった腕が杏梨の肩に回った。


杏梨の恥ずかしい顔を見るとからかいたくなる。


「まだ暑いんだ」


部屋の中は十分にエアコンが効いていて風呂から上がった肌は冷めている。


「じゃあ、引っ付かない方がいいよ」


照れている一方、顔がこわばっている感じを雪哉は受けた。


何かが変だと雪哉は思った。


「ゆきちゃん、わたし……ゆきちゃんの過去の女性関係なんて気にしないからね?」


突然の杏梨の言葉に雪哉の目が大きくなる。