「お店……飛び出して……ごめんね」

まだ峻と視線を合わせないが落ち着いてきたようでホッとする。


「もう謝るなよ 俺も悪かったんだ 雪哉さんの話を聞いたらショックだよな」


「あのね……わたしは小さい頃から隣に住んでいるゆきちゃんを知っているの 浅川さんの事は知らなかったけど……昔からゆきちゃんは途切れることなく彼女がいたのを知っている でもそんな事かまわない わたしは過去をひっくるめて今のゆきちゃんが好きなの だから峻くんとはもう会わない」


潤む瞳でやっと峻と視線を合わせた杏梨は強く言うことが出来た。


「なん!いきなりなんだよ!」


思わず大きな声になる。


「いきなりどうして話が飛ぶんだよ!」


「飛んでなんていないよ わたしはゆきちゃんを愛しているから峻くんとは会えない ううん 会いたくないの」


「ああ!分かったよ!もう二度と連絡しないからな!」


プライドの高い峻は杏梨をなだめることなく言い捨てた。


「……うん ごめんね さようなら」


そう言った時、タクシーがマンションの前に停まった。


杏梨はまだポケットに入っていた千円札を出すと峻の手の中にさっと置きタクシーを降りた。


峻は降りる杏梨を見ようともしない。


掌(てのひら)に置かれた千円札をぎゅっと握り反対の窓の外を見ている。


苛立ちがこみ上げて来る。


「くそっ……」


運転手に行き先を聞かれ六本木へ向かうように言った峻だった。