Love Step

「あ~ お腹いっぱい♪」

ラーメン店を出ると杏梨は大きく伸びをした。


「峻くん、はい」

あとから店を出てきて財布をズボンの後ろポケットにしまっている峻に千円札を1枚渡そうとした。


「いらねえよ」

お金を差し出されてムッとした表情になる。


「だって、おごってもらうなんて良くないよ」


「なにが良くないんだよ」


ぶっきらぼうな声が返ってきた。


「おごってもらう理由ないし」


もう一度千円札を差し出すと峻は受け取り小さく折ると杏梨のポケットに入れる。


「峻くんっ!」


「うるさい」


杏梨の手を握ると歩き始めた。


「まだ時間良いだろ?お茶しようぜ」


話を変えられてしまった。


夏の夜、まだ人が多い道を峻は軽い足取りで歩いていく。


その歩幅に杏梨は小走りになる。


なぜか急いでいるようなせっかちさ。


「ちょ、ちょっと峻くんっ!」


杏梨は前を行く峻を呼んだ。


軽く息が切れている。


杏梨に呼ばれて峻が立ち止る。


「ん?」


「歩くの早いよっ」


「あ……わりぃ」


「もうっ、歩幅が全然違うんだからね」


杏梨が頬を膨らませて言うと申し訳なさそうな顔を見せる。


そして手をつなぎ、今度は杏梨に合わせて歩き始めた。


手を繋がれるとびっくりした。


その手を見つめたまま歩く。


このままじゃダメだよね……。

わたしはゆきちゃんが好きなんだから。


杏梨は峻と歩く事に罪悪感を覚えていた。




峻は杏梨に歩くのが早いと言われて我に返った。


強引に歩いていたようだ。

杏梨がすぐにでも帰ってしまいそうだった。

だから手を離されないように杏梨を引っ張るように歩いた。