Love Step

何かを取り出す時以外、峻くんはわたしの手を離さない。

何度も手を引き抜こうとしたけど、そのたびにぎゅっと強く握られてしまう。

わたし何やっているんだろう……。


電車に乗ると背の高い峻を見る為に上を向く。


「いい加減に離してよ」


掴まれている手をブンブン振る。


「嫌だね」


杏梨の不機嫌な顔を見ても峻は嬉しいらしくニヤッと笑う。



(ねえ、あの男の子 モデルの峻じゃない?)

(うわっ!本当だ~ あの女の子彼女かな~?)


周りにいる女の子たちから聞こえてくる。



「ほら、勘違いされちゃうよ?」


すぐに峻の正体が分かってしまうのにはびっくりだ。


女の子たちの声が大きかったから周りにいる人にも、もちろん峻にも聞こえているはずだ。


「どーでもいいよ」


本当に気にしていなく、どうでも良いように聞こえる。


「峻くん!わたしは困るのっ」


思いっきり手に力を入れて抜き取った。



今まで付き合った女は自分からベタベタしてきた。

だから杏梨はすごく新鮮だ。


* * * * * *


ラーメン店のカウンターに座ったわたしは1杯のラーメンでは物足りなくて替え玉を注文した。


「お前のその小さな身体のどこにはいるんだよ」

峻くんは呆れたようにわたしを見る。


「だってラーメン大好きなんだもん それにここのラーメンおいしいし♪」


それを聞いていた店主のおじさんが煮卵をおまけしてくれた。


気軽におじさんと話せたことは杏梨にとって収穫だ。


今まではどうしても身構えてしまって普通に話すことができなかった。


峻くんは誰とでもすぐに仲良くなる。

そのおかげなのかもしれない。

ゆきちゃん以外、異性と出かけたことがないわたしだけど思ったより楽しんでいる事に気づいた。


ラーメンを食べながら峻くんの大学の友人の話を聞く。


見た目が軽そうだからモデルをしながら仕方なく大学に通っているのかと思っていた。


でもそうではない事が分かった。


彼は目標に向かって努力をする人なんだ。


杏梨は峻を見直した。