杏梨の食べっぷりを見ていた峻は更に顔が緩んでくるのが分かった。


なんか俺って単純。

杏梨がずっと姉貴たちを見ていて俺の事を無視しているみたいで気に入らなかった。

乱暴に皿を置いたら黒目がちの大きな瞳で睨まれてそれがうれしかったりする。



「杏梨、食べたいものを注文しろよ?」


杏梨の食べている所を見ていると雪哉さんが言う。


すかさず俺は杏梨にメニューを差し出した。


「あ……りがと」


フォークを置いて杏梨はメニューを開いた。




メニューを見ていると雪哉と彩の会話が耳に入ってくる。


店内に流れる音楽がバラード曲の静かな音楽になったからだ。


「夏休みはどこかへ行くの?」


「長く取れたらアメリカのワシントンDCへ行こうと思っているけどね」


「お父様の所ね?」


彩は訳知り顔で頷いている。



どーして、彩さんが知ってるのっ?


杏梨の頬がプクッと膨れる。


それにゆきちゃん、お休みが取れそうもないって言ってたのに。


メニューよりも2人の会話が気になってしまう。



「おい、決まったのか?」


いつまでもメニューを開きっぱなしの杏梨に峻が聞く。


「え?あ……まだ……」


「……気になるのか?姉貴たち」


「……」


もちろん気になるに決まってるっ。


そう言いたかったが言えない。


「なあ?」


なおもしつこい峻に杏梨はにらみつけた。


「あなたには関係ないでしょっ」


「峻って呼べよ」


杏梨は思いっきり深いため息を吐いた。


怒って言ったのに、この切り替えし訳わかんないよ……。


「姉貴は雪哉さんの事が好きなんだ」


声のトーンを落とした峻が言った。