「杏梨が持っていても良かったのに 言い忘れてたよ」


「私が持っていても良いの?」 


「もちろん 一緒に住むのに鍵がなかったら困るだろう?」


雪哉は杏梨の腕を取り貴美香の所へ向かう。



「貴美香さん、お手伝いできなくてすみませんでした」


「いいのよ 雪哉君は忙しいんだから 引越しといっても荷物は少ないし」


杏梨は視線を感じて店内に目を移した。


視線の先は雪哉だ。


ゆきちゃんが来た途端に店中の女の人が見てる……。


雪哉の隣にいる杏梨は落ち着かなかった。



「杏梨ちゃんは可愛い顔しているね?」


雪哉と貴美香が話をしていると遼平が杏梨に話しかけてきた。



「ママ、行こう 春樹おじさん待たせちゃう」


遼平の言葉を無視して足早に出口に向かう。


杏梨は母親を置いて先に店を出た。



「ごめんなさいね 愛想が無い子で」


貴美香が遼平に謝る。



「杏梨は良い子だよ 貴美香さん、すまない 遼平 ちょっと事情があるんだ」


雪哉はガラスの向こうに所在なげに立っている杏梨を見た。