座り心地の良いソファーに座った杏梨は落ち着かなかった。


ここにいる人はみんなおしゃれで素敵な髪型をしている。


お客様も従業員も。


自分がここにそぐあわない気がして気後れしてしまう。



「あの男の子、ベビーフェイスで可愛くない?」


受付のさやかが隣にいる同僚の菜美(なみ)にこそっと耳打ちする。



「ほんと、可愛いっ」


受付の女性2人が話をしているのは杏梨の事だった。


2人には短い髪の杏梨が男の子に見えるらしい。




「西山様 いらっしゃいませ」


早く鍵を返して帰りたいと思っている所へ近づいてきたのは真っ白なシャツが良く似合う小麦色の肌の北島 遼平(きたじま りょうへい)。



「北島君、相変わらず忙しそうね」


雪哉に次ぐ人気の遼平は貴美香の担当でもあった。



「おかげさまで、渡米するって雪哉さんから聞きました 残念です」


そう貴美香に言って遼平は隣にいる杏梨に視線を移した。


母親と話をしている遼平をぼんやり見ていた杏梨だが、遼平と目が合うと急いで目をそらした。


「杏梨ちゃんは行かないんだね?いつか君の髪をいじりたいな」


「だ、だめです 短いから」


杏梨は遼平と視線を合わさずに答えた。


「ごめんなさいね 杏梨は男の人が苦手なのよ」


貴美香が苦笑いしながら遼平に謝った。


居心地の悪さに杏梨は螺旋階段に目をやった時、雪哉が降りてくるのが見えた。


昨日まで金髪に近い髪の色がアッシュグレーに変わっていて杏梨は目を真ん丸くした。



顔立ちが整っているから何をしても似合っちゃうんだ……。


「ゆきちゃん!」


杏梨は立ち上がって螺旋階段へ行った。


ちょうど雪哉は床に足をつけた所。



「杏梨、片付けは済んだ?手伝えなくてごめんな?」


「うん カギありがとう」


杏梨の手に握られたカードキーと1本の鍵。