「ほらっ!思い出したっ!」


信用されていない視線に雪哉は大きくため息を吐いた。


「匂っていたとしたらCM撮影中に付いたんだよ」


「CM撮影中に付いたって、どうやったら付くのっ?」


「それは……」


抱きつかれたって言ったらひかれるんだろうな。


「教えて、どうしたら付くの?」


「抱きつかれて――」


「やっぱり彼女なんだ」


どんどん話が変になっていく。


雪哉は立ち上がると杏梨の隣に移動した。


「はっきりさせよう 杏梨は俺の事が好き?」


雪哉の切れ長の目で見つめられ顔が一気に赤くなった杏梨はコクッと頷く。


「……好き」


「俺も杏梨が好きだ 一番大事な子だよ」


「一番大事……?本当に……?」


ゆきちゃんがわたしを好き?

夢見たい……。


ポカンと雪哉を見つめる杏梨。


「トラウマの事があったから兄のように接していた そうしなければお前に近づけなかったからな」


「ゆきちゃん……」

雪哉の名前を口にした途端に杏梨の目から涙が溢れ出た。


「だからさっき杏梨に迫られた時は歯止めが利かなくなりそうだった このまま自分の物にしてしまおうかと」

指を伸ばし杏梨の頬に伝わる涙を拭うと抱き寄せる。


「ゆ……き……ちゃん」


雪哉の指は杏梨の髪を優しくもてあそんでいる。


「俺の為に女の子らしくしようとしてくれた事に感動したよ」


「本当?」


「だから……俺の大事な子だから無理をして欲しくない」


もてあそんでいた髪から指を離すと顎をすくい上げ唇にキスを落とす。


触れるだけのキスはなんだか物足りないと杏梨は思ってしまった。


「わたし、ゆきちゃんが好きなの、ゆきちゃんなら怖くない」


トラウマを克服したい。


「それでも……衝動的な感情で杏梨を奪いたくないんだ」


「でもわたしは奪って欲しいのっ そうしたら―」


雪哉の指が杏梨の唇に触れる。