‘好きな子’



 熱っぽい瞳でこちらを見つめる溝口君に、クラリと目眩がした。



「なあ、どうしてあの時、……泣いてたんだ?」




‘ザァァァァ’


 一層強く吹く風が、二人の間を通り抜ける。

 それに弾かれるように、私は駆け出した。



「―――ごめんなさいっ…」


「美桜っ――!」



 溝口君が呼ぶ声を、背中で受け止めて。

 ただ、がむしゃらに坂を走った。




 ドクドクと激しい鼓動。
 荒く吐き出される息。

 こんなにも苦しいのは全部、走っているから―――。