駅から真っ直ぐ続く坂の上に、私達の通う大学はある。
 1キロ程あるその坂は桜の樹が道に沿うように植えられている。




 桜は、切ない。

 大好きな人を思い出すから。


 一度だけ無理矢理に抱かれても、嫌いにはなれなかった。


 それから、会ってすらいない。






 すっかり緑の濃くなった葉桜の下、私は溝口君に手を引かれるまま、歩く。



「ねぇ、どこに行くの?」


 いくら代返の利かない講義があるって言っても、溝口君は聞いてくれない。

 だから、戻ることは諦めた。