気がつけばもう、三十路前になっていた。

それでも女でいたい、と、たまに夫と娘の三人でいく外食の日には、おしゃれをするようにしていた。

「ねえねえ、お母さん。」
幼い声で呼びかけるのは、私の愛娘、
5才になったばかりのサキ。

「なに、してるの?」

サキが指を差した先にあったのは…

お母さんからもらった口紅。

唇に塗るその仕草に、惹かれたんだろう。
小さい頃の私みたいに。

私は、女になった。

女の子に、教えてあげるんだ。
前を歩いて。

「大きくなったら、サキにも付けてあげる。」

そういって、思い切り微笑んだ。