太陽は燦々(さんさん)と差し、青い海を七色のプリズムに光らせる。

…太平洋に面した海岸沿いに、白いヨットが浮かんでいた。

その船上には白地に紺色の、ボーダー柄のTシャツを着た、サングラスの青年の姿がある。

「ああ、思いきって買ったかいがあったな。やっぱり気持ちいいや。」

…彼の名は伸也(しんや)。

都内の商社に勤める会社員で、妻子のある家庭持ち。

妻には頭があがらないが、その反対を唯一押し切り、手に入れたのがこのヨットであった。

…ボロボロの中古だが、どことなく愛嬌がある。

傘に名前を書いていた後輩を見習って、彼もヨットを『伸也号』と名付けた。

そのヨットはいま、爽やかな風を受けて、海の上を滑っていく。

遠くには海岸線が見えて、沖合いには大小の島々がある。

「おや、あれは何だ?。」

伸也はその波間に漂う、不思議なものに目を留めた。

赤い蝶々のような柄で、プカプカと浮かんでいる。

…よく見ればそれは、着物を着た人間であった。

女性というよりはまだ幼い若い少女で、髪が黒く腰にまで長い。

「うわっ、大変だぞ。これは。」

伸也は一人うろたえながらも、ヨットの舵を動かして、その傍らに寄せた。