「音遠……」


酷く辛そうな声で、私を呼んだ。




……ドキン……



目が……

反らせない。



お兄ちゃんは
反則的なくらいに綺麗で真剣な顔をして、
至近距離から私を見つめる……



……と。




「──っ、悪い」


ハッとした表情になったと思うと、
急にバッと立ち上がった。




……ドキン……




「…はっ……

……確かに俺は……
“最低な兄貴”だよな……」



髪の毛をくしゃっとかきあげながら自重気味に笑ったと思うと、

体の向きを代えてリビングから静かに出ていった。




パタン


ドアの閉まる音だけが、虚しく部屋に響いた。




……ドキン……

……ドキン……



「……ふっ………」



何故だろう……

一筋。
涙が零れた。



ポロポロと零れ落ちる涙は、まるで栓の壊れた蛇口のように次から次へ溢れ出し。



「…っく、……ふっ…………」



心臓を抑えながら

決して聞こえないようにと我慢した嗚咽は、

頭の中のグチャグチャを吐き出すように止まらない。



ガラガラと崩れ落ちる、
兄妹という堅い絆。