以前に、一度だけ事務所の前を横切った事がある。
なんでかって言うと……
ピリリリリ
と、お兄ちゃんの携帯が鳴った。
「あっ、渡さん?
はい、今から行きます」
どうやらマネージャーさんからみたいで、電話を切ったと思ったら
ソッコーで部屋に戻り、一瞬で着替えてきた。
早……
寝癖の髪の毛はそのままなのに、シャツと細身パンツを履いただけで
“芸能人オーラ”が出てる。
……はぁ、さすが磨き上げられたアイドル、違うよね……
長い手足と小さな顔
スタイルの良すぎる兄を見て、溜め息を吐いた。
「戸締まりちゃんとしろよ?」
「分かってるよ」
顔すら合わせず
事務的な会話をしたかと思うと
「おーおー、お弁当までご苦労、妹よ」
その時お兄ちゃんが、
私のお弁当(お昼ご飯)をヒョイと手に取った。
「あっっ!それ私のお弁当……!」
精一杯阻止する手も虚しく……
「じゃあなー」
パタン。
あ。
「私の……お弁当……」
残された私。
お兄ちゃんに……お弁当を拉致されました。
ガクンとその場でうなだれた……
―――――