バー、なのだろう。カウンタにスツールが5席と、4人がけのテーブルがひとつ。
そしてカウンタの向こう、びっしりと並べられたアルコール瓶を背後に、毅然と立つ男は、紺のベストに臙脂のボータイという、これまたスタンダードなバーテンダーの格好で、冷たいほど整った顔立ちに、侮蔑の表情を張り付かせて一太郎を見ている。
だが、感覚の麻痺した今の一太郎には、残念ながらどんな視線も通用しない。
怖い思いなら、雷嫌いの自分は、さっき嫌というほど体験してきたところだ。
それを理解したのか、バーテンはさっさと一太郎から視線を外すと、白い布とグラスを手に、己の作業に入ってしまった。
脅しが通じないなら無視する気か。こっちは客なんだから、いらっしゃいませの一言ぐらい言いやがれ、と、全身ずぶぬれの一太郎は、客としてあり得ない自分の立場を棚に上げ、舌打ちした。
