「はぁっ、はぁっ、…はぁーーっ」
走り続け、ようやく止まった足が、急にがくがくと震えだした。
まともに殴られた頬が、それ以上にまともに殴り返した拳が、今さらのように痛みだす。

あらゆる緊張をほぐすかのような、優しく甘い香り。
誘われるまま、建生はその場にしゃがみこみそうになり、慌ててカウンタ席にすがりついた。

と、そのときになって初めて、さっきから刺すようにくれていたのだろう痛い視線に気がつく。

「……」

あちゃーっと顔をしかめる一太郎と、木製のカウンタ一枚を挟み、ひとりの男が鋭い目をして立ち尽くしていた。