「……」
同時に身じろいだふたりの視線の先、開いたドアから、ひとりの青年が姿を見せた。すらりとした体躯に涼しげな一重の瞳、長髪を後ろで束ねた謎の青年。

青年はドアから一番近いスツールに腰掛けると、一太郎を見て、ふと意外そうな顔をした。

「先客?」
「え、ええ…まあ」

バーテンダーはさっきまでの凄みはどこへやら、しどろもどろした口調になっている。

「ご注文は」
「『ワード・エイト』。『ウィスキーはカナディアンで』」

「……」

瞬間、バーテンダーの表情が見事に凍った。
まさしく氷の美貌にふさわしいそれに、思わず息を呑んだ一太郎を、バーテンダーはゆっくりと振り返る。

大胆不敵な一太郎でさえも、気圧されるほどの、静かな迫力。

「お客様」
「は、はい…?」
「当店の営業は、午後6時からになっております」



一太郎の腕時計は、午後5時2分を差している。