「バーだろ、ここ。スナックじゃねえんだから、お勧めのメニューくらいあるんじゃねえの?そりゃボトル見て頼めばいいんだろうけど」
「メニューはあるが…」
 バーテンダーの表情は、驚きから、徐々に不審な物をみる目に変わっている。

「何故、いる」
「はあ?あるなら普通に出しゃいいじゃねえか!」
「君は何者だ」
「俺は客だっ!」

怒鳴る一太郎に、いよいよ表情を変えたバーテンダー。その時、店の奥に掛けてある時計が、午後5時を告げた。

重厚な振り子の音色が、狭い店内に響き渡る。

微かに軋む音を立て、振り返った一太郎の目の前で、店のドアがゆっくりと開かれようとしていた。