顔を見たいと歯無は思った。ドアの前に何か落ちていた。

 歯無は拾った。ハンカチだ。ビチョビチョだった。汗で濡れたのだろう。

 これで、顔が見られるチャンスが与えられたのだと、歯無は勝手に思った。

 チャイムはなかった。

 歯無の家にもチャイムボタンはあるが、故障してならない。頻繁に来客がくるわけではないので、ほったらかしだ。

 隣人は引っ越してきたばかりだろう。ここ最近、音漏れの記憶がないからだ。

 ドンドン!

 歯無は右手をグーにして、叩いた。

 反応がない。

 ドンドンドン!