歯無の部屋は左に突き進み、三つ目のドアである。いつものようにポケットから鍵を取り出した。

背後に気配を感じた。
走ってくる人がいるからだ。かすかに足音が聞こえた。

 風がふいて通りすぎたので、隣人だろうと推測した。時間も午後十一時になろうとしていたので、客である確率は低い。

 住人だろうと、来客だろうと歯無には関係のないことだ。

 いつものように、関わらなければいいのである。

 歯無は隣人がドアを入る後ろ姿を見てしまった。髪は黒く、長さは肩まで伸びていた。真っ白なTシャツに黒のジーンズで、真っ白だった靴は黒く変色し、その間から足首は細く真っ白だ。全体的に華奢な体つきなので女性なはずである。