「あれ?」

 歯無は自分の部屋に戻った。ドアを開けると、人がいたから驚いたのだ。

 女性だったらうれしいが、いたのは男だ。

 同性愛ではないので、すぐに怒りたくなる歯無だが、よく見ると、戸度橋だった。

 壁を背にあぐらをかいて、こっくりと眠っていたのだ。

「ああっ……」

 戸度橋は歯無の声で、目を覚まし、立ち上がった。

「用事か?」

 歯無は戸度橋がいる理由は知っていた。脱出のことに決まっているが、今はとぼけてみたかったのだ。