翌朝、誰よりも早く起床したショコラは、いつも以上に気持ちを込めチョコレートを溶かし始めました。
 チョコレートを溶かし、大理石の上に溶かしたチョコレートを流し、パレットナイフでチョコレートの温度を均一にします。
 28℃~26℃までに下がると再び湯煎にかけ、チョコレートを溶かし、再びテンパリングを繰り返します。


『美味しくな~れ……』


 ショコラは呪文のように呟きながら作業に没頭しました。
 そうして艶やかに溶かされたチョコレートは、ガナッシュを始めとした様々な味、形のボンボン・オ・ショコラに仕上げられ、固まるのを待つ間、新作のチョコレート作りを作り始めました
 様々なフレーバー、果物、誰も試したことのない味を探しながら、ノートのページ一杯に書かれたメモを、甘い香りに誘われ目を覚ましたフェアリー達が覗き込んでいました。


 やがて夜が明けるにつれ騒々しくなる街を見渡し、固まったチョコレートをコーティングし、ショコラの店の模様をつけました。
 それは妖精の羽根をイメージした《Fairy》にしかない模様です。
 次々出来上がるチョコレートを、一つ一つ丁寧にショーケースに並べると、残りを従業員に任せCloseの札を、openに変えました。
 静かな店内に、音楽が流れ出しチョコレートの匂いに包まれた《Fairy》に早速お客が来たようです。


『いらっしゃいませ』


 ブラウンのコートを着たその男性は、チョコレートには目もくれず、ショコラを真っ直ぐみて言いました。


「やあ、今日も新作を味見しにきたよ。」


 ショコラは微笑み、こう返しました。


『おはようクヴェル
残念だけど、まだ完成していないの。
変わりにいかが?』


 ショーケースの中から一つボンボンショコラを取り出すと、クヴェルに差し出しました。