「さ、冴子…」

呼び止めようとした瞬間、腕を引っ張られた。

フワリと、甘い香りが躰を包み込んだ。

気がつけば、私は胸の中にいた。

腕の主をそっと見あげた瞬間、私は驚いた。

うわっ…。

つい、腕の主に見とれてしまった。

茶色に近い黒の髪。

女かと思うくらいにキレイに整った顔立ち。

フレームのない眼鏡が、彼の美貌を引き立たせているように思えた。

「で、君の家はどこなの?」

形のいい紅い唇から、媚薬のようなテナーボイスがこぼれ落ちた。

ちょっと、変態じゃないんだから何を発情しかけてんのよ。

けど、彼の声にドキッとしたのは事実である。