椅子がひっくり返った音と同時に、唇が温かいものに触れた。

冷たい唇だった。

だけど、それに甘さが含まれているのは何故だろう?

どれくらい、そうしていたのだろうか?

気が済んだとでも言うように唇が離れた。

それを名残惜しく感じたのは、俺の正直な気持ちだろうか?

と言うか、
「終わったのかよ、仕事は」

見事にムードをぶち壊しにした俺は、正気だろうか?


「勇の家、相変わらず広いね」

窓の外の夜景を見下ろしながら、真希が言った。

「あんまり広いのも、落ち着かないけどな」

ネクタイをゆるめながら、俺は言った。