─考えてる暇無いな。
すぐ後ろには影の気配。それを確認しつつ、ウルはまた少し速度を上げた。
一気に門を抜けると、少し右に旋回し、丘の中腹に降り立つ。と同時に、胸の前で印を組み、別の魔法を唱え始めた。
─闇に揺蕩(たゆた)う白銀の魂よ─
影が迫る。辺りが一段と暗くなるような錯覚がウルを襲った。
─光陰となり、敵を討て─
「ウル、来たぞ!」
怒鳴り声ともとれるクレイグの声。ほぼ同時にクレイグが地を蹴る音。
ウルは迫る影から視線を外さず、攻撃してくる瞬間を待った。
呪文は、既に唱え終わっている。
ウルの手に、僅かに力が籠もった。
ギシャァァァァァァァッッ!!
大きく口を開け、牙を光らせ、闇と一体になったような巨大な影が猛スピードでウルに食らいついてきた。
クレイグの怒号が聞こえるが、影の声と、地を擦るように迫ってきた音が重なり、なにを言っているのかわからない。
あらかた予想は付くが。
─もう少し……!
ギリギリまで近づかなければ意味がない魔法だ。
影は目の前に迫った。ウルまで、約十メートル強。
─………今だっ!!
まさに、ウルをその牙の餌食にしようとした瞬間を見計らい、大きく横に飛んだ。
ウルのすぐ隣を、大きく開いた口がすり抜ける。
その先にある物は……。
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