恐々と、ゆっくり後ろを振り返る。

 木々が生い茂る森に続く茂み。
 その茂みの先に、いまだかつて見たこともない巨大な何かが立っていた。

 月明かりを背に、ゆっくりゆっくり近づいてくるそれは、まるで巨大なトカゲを連想させる図体をしていた。

 真っ黒な体には鱗のようなものがびっしりと全体に張りつき、光の反射なのか所々がテカテカと光っている。
 四足歩行をし、顔はトカゲそのものだった。
 頭のてっぺんから黒い角のような物が生え、尻尾の付け根は大人一人が両腕をいっぱいに広げたぐらいの太さがあるように見える。

 ずずずずずずずずずずず……

 歩く度にその太い尻尾を引きずる音が辺りに響く。

 音の正体を目の当たりにしたウルは、リムレット同様硬直し、ただその巨大生物を見ていた。

 先に我に返ったリムレットは急いで丘を駆け戻り、勢いよくウルの手を掴むと半ば引きずるように走り出す。

「走って! ウル!」

 唐突に後ろに引かれ、ウルもはっとしたように走り出した。






 ─なにあれ!

 この言葉だけが頭の中を駆けめぐる。

 口に出す余裕が無いほど、ウルは全力疾走していた。
 後ろを振り返るのが怖い。すぐ後ろに迫っているのかもしれない。
 風を切る音だけが耳障りなほど大きく聞こえた。町の明かりが徐々にはっきり見えてくる。

 なんでこんなところにまで来てしまったんだろう。
 もっと町の近くにいればよかった。


 でも、もうすぐ街道に出られるっ!

 リムレットとウルの表情に、ほんのわずかだが安堵の色が浮かんだ。

 その瞬間。

 ダァァ……ン…

 町の方から猟銃を発砲する音が響いた。

 ダダァァ…ダァ……ン…

 ダァァァン……

 立て続けにたくさんの銃声が轟く。

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