はぁはぁと肩で息をするリムレットを見て、ウルは失敗したと思わずにはいられなかった。
 まさかそんな事とは知らず、おじさんを引き合いに出してしまった事を後悔したが後の祭りだ。


 長い沈黙の後、リムレットはぽつりと呟いた。

「……ママに、会いたいよ……」

 ウルは何も言えなかった。

「ママが帰ってくれば、きっとパパだってまた私をみて笑ってくれる。ドラゴンテイルさえ手に入れれば、きっと……」

 俯いたリムレットの瞳から涙が零れた。

 初めて見るリムレットの涙に動揺したウルはどうしていいのかわからず、ただリムレットの手を取り直してリムレットの気持ちが落ち着くのを待った。

 再び落ちた気まずい沈黙を破ったのはリムレットだった。

「…あ〜ぁ…何だか、疲れてきちゃった。それに、今町を出て行ったらウルが怒られちゃうね」

 リムレットの妙に明るい声に少し拍子抜けした様なウルの顔を見て、

「私が泣いたなんて他の人に言ったら許さないんだからね!」

 そう言うと、一人で丘を降り始めた。

「リムレット……」

 丘を下るリムレットの後ろ姿を見送り……──

 影が、動いた…──。


 ずずずずずずずず

 何かが引きずられる重低音。

「ウ、ウル……」

 音に気付いたリムレットがウルの方に戻ろうと動いて、足を止めた。

 リムレットの視線の先は、ウルではなくもっと後ろに向いていた。

「な、何? やめようよ、そんな冗談」

 ウルは、嫌な予感と声の震えを必死で抑え出来る限り明るく言ったが、リムレットの視線は変わらない。むしろ、青ざめて硬直しているようにも見える。

 ずずずずずずずずずず

 あの奇妙な音が、段々大きくなる。
 ウルの足元から、影が濃さを増してリムレットの方へどんどん広がっていった。

 月が雲に隠れているせいだと思った。
 月明かりに差し掛かる雲の影だと。

 だが、影が広がるにつれ上がっていくリムレットの視線が、そんなウルの予想をことごとく打ち破る。

 何かがいるのだ。

_