「あぁ、そうだな。そろそろ帰るか……」

 そんなに大きな声でもないのに、済んだ声が校舎に響くように聞こえる。

 彼は無表情のままキスティンの幼なじみに声をかけて、レナのいる扉の方へ歩き始めた。

「!」

 思わず扉の横に隠れるレナ。

 覗いてたの、気づかれちゃったっ?!

 扉から離れて校舎の影に隠れながら、レナは鼓動が早くなるのを感じていた。

「この霜とその他諸々どーすんだよ」
 キスティンの幼なじみの声。
「ほっとけ。どーせ今日はもう誰もこの校舎使わないのは確認済みだ」
 レナの鼓動がさらに早くなる。

「明日の朝には無くなるだろ」
 声が徐々に近づくに連れて、レナの鼓動は早くなった。

 しんぞー壊れちゃうよ……。

 ぎゅっと固く目を閉じ、少しでも鼓動を落ち着けようとする。顔は既に真っ赤だ。

 二組の足音が扉の付近に近づいてくる。
 レナははっと顔を上げた。

 あの人達がこっちに来たらどうしよう!


 とっさに隠れた所は、扉から別校舎を迂回するように曲がっている細い通路。
 その道は一本道で真っ直ぐ本校者の正面入り口に繋がっている。

 別校舎と本校舎に挟まれた道で、隠れる場所などどこにもなかった。

 別校舎から出てきた二人は、レナの不安を余所に反対方向へ歩き出した。

 ほぅ………。

 嬉しいような、ちょっと残念のような。
 自分でもよくわからない溜め息をつき、レナは二人が見えなくなるまで見送った。


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