山脈を越え、首都を越えて、グレイクレイにたどり着いた時にはもう空に明かりが差し始めていた。
街の外れ、ウルがレナに会った場所付近にワイバーンとウルを待たせ、セルフィリオーナは一人街に入っていった。
ウルに教えられた通りの道を足早に進んで行き、レナの住む建物の前で止まる。
今、セルフィリオーナは髪を下ろしていた。前髪を斜めに分け、服も胸の前のクロスバンドを外して、丈の短いティーシャツの上から灰色のマントを軽く羽織る。
ショートパンツだけは替えが無くそのままだが。
エルフの特徴である耳は、持っていたハンカチをバンダナ代わりに頭に巻いてその中に隠した。
若干の違和感はあるが、普通の街娘に見えなくはない。と言うより、パッと見ただけではセルフィリオーナだと分からない。
もちろん見えるところに武器は持っていないが、太股のバンドに差していた短剣は今マントの内側に隠している。
─コンコンッ
セルフィリオーナのノックの音が、まだ寝静まっている街の中に大きく響いた。
中からバタバタと足音が迫り、勢いよく扉が開く。
「ウルさんッ?!」
飛び出してきたレナに驚いて一歩下がるセルフィリオーナと、見覚えのない女性の顔に驚きその場で固まるレナ。
「………あ、えっと…あの……、どちら様でしょう?」
レナが恥ずかしそうに問いかけると、セルフィリオーナはハッと我に返り、笑みを浮かべた。
_

