医者は、キスティンの脈を測り、額に手を当てる。
「嘔吐はあった?」
尋ねる医者に、キスティンを運んでいた男が首を振る。
「なにも」
それを聞き、医者は顔を上げた。
「ゴルベルジュの毒にやられた時の症状に似てるわね」
ゴルベルジュとは、この国の森にならどこにでも生えている木の一種。ただし、森の奥など、人が滅多に来ないような密林に生えており、その樹液は猛毒を含む。
味は甘いらしく、遙か昔に料理の隠し味として使われたらしいが、その毒による死亡者が続出してから採取取禁止になった。
「たぶん、間違いないわ。毒を摂取してから……そうね、二時間って所かしら」
未だ苦しそうに息を切らせるキスティンを見て、クレイグは医者に詰め寄った。
「何とかしろよッ! 医者だろッ?!」
「出来るならとっくに手を打ってる!」
クレイグの怒気を跳ね返す勢いで、医者が怒鳴った。
「でも、解毒剤が無いのよッ! この毒に、従来の薬は効かないの!」
そう言うと、視線をキスティンに戻す。
「全身を襲うダルさ、異常なまでの高熱。次は痙攣、その後は……─」
「……もういい」
医者の言葉を遮り、ウルが呟いた。
一歩、医者の前に歩み寄る。
「従来の薬は効かないって言ったな。なら、調合は? 必要な薬があるなら手に入れよう。それでも、作れないか?」
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