「山だよ。国一番の高さと長さを誇るグランドリア山脈さ。あの山を越えれば、ホズまではすぐだよ」
星の途切れた場所を指さしながら、セルフィリオーナが言った。
─あれ、山の影だったのか!
普段、昼間しか山を見ることのないクレイグは、高く広がる黒い影を驚いた顔で見つめた。
山の頂上は、雲を突き抜けているようで見えない。
ワイバーンはぐんぐんと高度を上げ、雲の中に突入する。
突き抜けた先は、まさに別世界。
所々に浮かぶ雲を月が空から照らし、銀色に輝いていた。
その銀色の大地の先に黒い山の頂上が顔を出し、ふり仰ぐ空には満天の星達が輝いている。
地上には無い景色にただ圧倒された。
「すげ……」
吹き抜ける風だけが、クレイグの漏らす呟きに耳を傾ける無音の世界。
幻想的な景色の中を、四匹のワイバーンが時折雲に影を落としながら、優雅に飛んでいく。
山の頂上を、見下ろしながら通り過ぎると、ワイバーン達は高度を下げ始めた。
─もう終わりなのか……。
名残惜しそうに、遠ざかる雲上(うんじょう)の世界をいつまでも見つめるクレイグ。
「ほら、見えてきた」
セルフィリオーナの声に、遠くなった雲から視線を外す。
眼下には、もうホズの街灯りが広がっていた……──。
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