「六千年戦争を知ってるか?」
眠るコパンのベッドの縁に座り、コパンに目を向けたまま。部屋の入り口に立つエルフ女を見ずにウルが言った。
包帯を巻き終えた頃には既に眠っていたコパンを起こさないように、案内された部屋のベッドに寝かせてからしばらく。
続く沈黙を、ウルがその言葉で破った。
「もちろん」
─あたしを誰だと思ってんの?
そう言いたげな視線をウルに送る。
その視線を肌に感じ、ウルは続けた。
「あの時ドラゴンを率いていたのが黒竜だと言うことは?」
「……知ってるわよ」
ウルは、視線を向ける。真っ直ぐに、エルフ女を見据えた。
「黒竜が復活したと言ったらどうする?」
彼女の、エメラルドグリーンに輝く瞳が、驚いたようにウルに釘付けになる。
「もう、黒竜は滅んだはずよ」
確認をするように言った。
だが、ウルは静かに首を振る。
「見たんだ。漆黒の……、闇そのもののような黒い竜を」
その言葉に口をぱくぱくと動かしながら「うそ……」と小さく呟く。
だが、ウルの目は、嘘を言うそれとは違い、真っ直ぐにエルフ女を見返している。
ウルは、全てを語った。
宝玉の事だけは伏せたが、攫われたリムレットを助けるために旅に出た事、ルーヴァであった事、コパンの事、そして、処刑予告の事……。
彼女は、時折驚いたように唖然とし、また怒ったように声を上げながらも、ウルの話に耳を傾けた。
宝玉の事を隠したのは、他ならぬ彼女が盗賊だからだ。
宝玉と聞いて、悪巧みをするかもしれない。これ以上、危険要素を増やすわけにはいかない。
_

