ドラゴン・テイル


「へぇぇ……、竜に祈りを、ねぇ」

 説明を聞くウルの表情がどんどん不機嫌になる。
 レナは、少し怯えた表情でキスティンと視線を交わした。

「えっと…、マーロウ君は、竜が嫌いなのかな?」
 遠慮がちにキスティンが問う。

「嫌いだね。みんな何でこんなお祭り騒ぎしてんのか理解できねー」
 イライラした口調で言うウルに、
「そりゃ、この町を守ってくれたからだろ? あん時すごかったぜ。おまえ見なかったの?」
 クレイグが答える。
「うんうん! 大きなモンスターを吹き飛ばした時のドラゴン! 格好良かったの覚えてる!」
 キスティンは、クレイグに賛同するように嬉しそうに言った。

「だよなー! 去り際も格好良かったなぁ。俺たち町の人間に危害も加えないで、まるで光の中に消えた感じ……」
「何の代償も無く守られたとおもってんのか?」
 クレイグの言葉を、怒りを含んだ声で遮るウル。

「……おまえ、さっきから何が言いてぇんだよ」
 さすがにお調子者のクレイグにも、ウルの態度に怒りを覚え始めた。


 あの光と共に一人の人間が連れ去られた事を、ウルは話してしまいたかった。
 この町にもう一人、人間が住んでいたことを。

 堅く瞼をおろすウル。

 あの日の記憶が鮮明に浮き上がる。

 光の中、少女の悲鳴、町に戻った時の少女の父親の表情、その時に言われた言葉。

《あの子の事は誰にも言わないでくれ。》

 ウルの言葉を聞いて、涙で目を真っ赤にしながら。町の人間がみんな喜びの声を上げる中。
 ドラゴンが町を守ったのは事実だ。あの子の事を言えば、みんなの喜びに水をさしてしまう。
《頼む…………》

 苦しいはずなのに。悲しいはずなのに。
 すぐにでも、ウルを殴りたかったはずなのに。


 それからしばらくして、おじさんは引っ越した。どこに行ったのかは知らない。





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