辺り一面、緑の草で覆われた場所。
少し離れた眼下に、ウルの住む町が見えた。
─ここは………あの丘か?
状況がよく理解出来ない。
突然の事に戸惑っているウルの耳に、笑い声が聞こえてきた。
小さな、子供の笑い声。
「やったー! 頂上!」
声の出所に視線を向けると、丘の一番高い所に小さな影が見えた。
太陽の逆行でシルエットしか確認出来ないが、声を聞いてウルの鼓動は急激に早くなった。
………まさか……。
影は、ウルの方を向いて動きを止める。
不意に、ウルのすぐ横をまた一つの小さな影がすり抜けていった。
よろよろと丘を登る影。
─……あれは……。
どこか見たことのある服装。
男の子のようだ。
ウルは呆然とした表情で、丘を登る少年の姿を見つめた。
─……あれは…………俺……?
「早いよ〜……はぁっ……」
「ふふっ! 私の勝ちね、ウル」
丘の上に立つ影が、小さなウルに手を延ばす。
─あぁ……そうだ……。
ウルは、驚いた顔のまま、漠然と昔を思い出した。
─よく競争をしてたな……。丘の上まで、先に着いた方が勝ちで……。
「今日はオレンジジュースでいいわ」
─負けた方が何か飲み物を奢る………。
「はぁ……勝てないなぁ…。リムレット早すぎだよ」
─リムレット……。
唐突に、世界が暗転する。闇の中に放り出された感覚。だが、不思議と驚きは無かった。
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