「ねぇ、ウル……。
 風の歌聞いた事ある?」

 新緑の香りが満ちる丘の中腹に寝転がった小さい影が二つ。町から少し離れたその場所は、大人でも滅多に踏み入れる事のない場所だった。

 特に最近は。

 少し前に町の近くでモンスターが目撃されて以来、尚更だ。


 ウルと呼ばれた小さな影は、少し頭を動かし、声の方に視線を向ける。

「風の音なら今も聞いてるけど?
 風って歌うっけ?」

 小さな笑いを含んだ声が微かに耳に届いた。

「ふふ……。
 やっぱりウルも聞いた事無いかぁ。私も無いんだぁ…」

 僅かな沈黙が落ちる。

「リムレット…」

「ん?」

 ウルは、少し言葉を選ぶように戸惑いながら言った。

「おばさん、優しかったね」

 リムレットと呼ばれた影が、一瞬ピクっと動く。

「やぁだ、ウルってば。
 私が泣いてると思ってる?」

 少し勢いを付けて、リムレットが起き上がった。

 月明かりの逆光で、霞んで見えるリムレットの顔だが、泣いてはいなかった。

 微かな光に当てられて、明るい茶色の髪が艶やかな黒髪に見える。七歳には見えないような落ち着いた表情で、リムレットは言った。

「泣いてないよ、私。んもうっ! ウルってば、ママが死んじゃってから二週間にもなるのよ?
 いつまでもうじうじしてらんないよ」

「そうかなぁ…?」

 ウルも体を起こして、空を見上げた。

「そうかなぁって何よ。だってホントに泣いてないじゃん」

「うん。お葬式の時も、リムレットは泣いてなかったね。すごく泣きそうな顔はしてたけど」

「でしょ?」

「でも、今もすごく泣きそうな顔だね」

「………」


 リムレットは、俯いて黙り込んだ。

「…帰ろっか……」

 ウルはそう言うとリムレットに手を差し伸べ……──

「……ドラゴン…」

「え?」

 唐突に呟いたリムレットの言葉を思わず聞き返す。

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