「皆さん、僕が監督の黒崎恭介(クロサキ キョウスケ)です」



僕ってだれ?

てか、アンタだれ?




驚くのも無理はない。

監督と名乗るその人物はまさに紳士という感じでスーツを着こなしていた。

髪まで黒い。

とても先日の顔合わせで見たビジュアル系のお兄さんと同一人物とは思えない。

しかし、よーくみるとやはり黒崎監督だった。




「僕はこのドラマを単なるアイドルの茶番劇にするつもりはありません。

名実ともに今年のドラマ最優秀作品にしてみせます」



ざわざわ……。



黒崎監督の発言に対し、会場がどよめく。



それはそうだ。

会場に来ていた他の監督やテレビ局に対し、“俺に勝てるもんなら勝ってみやがれ”と喧嘩を売ったも同然だ。



この監督は恐ろしい……。

役者一同そんなことを思った。



なんとかその場を収め、制作発表を終えてステージ上の皆が控え室に戻る途中、黒崎監督はこう言った。



「さあ、これで逃げ場はなくなった。

死ぬ気でやるしかねーぞ」


言葉とは裏腹に黒崎監督はニヤリと実に楽しそうに笑っていた。