――20分後。

いくら重い足取りでとぼとぼと歩いているからといって、道を違えず歩みを進めていればいつかは目的地にたどり着いてしまうもので。


私はビルの入り口で立ち尽くしていた。



『ここか……。なんかめちゃくちゃ大きくない? ……ってここ、『シルバー†ムーン』じゃん!』


高いビルを見上げて首が痛くなりながら独り言を叫ぶ。



『シルバー†ムーン』とは芸能事務所の名前で、最近人気のアイドルがたくさん所属していることで有名だ。



てかお母さんの知り合いの事務所の社長さんて、『シルバー†ムーン』の社長さんだったの!?

さすが現役28年のベテラン女優。

お母さんの人脈、侮るべからず、だ。


地図と一緒に渡されたメモによると、このビル全体が『シルバー†ムーン』事務所らしい。



「ねえ、あの子……」

「もしかして……?」


ううっ、さっき叫んじゃったせいか周囲の視線が痛い……。


考えてみればこんな一般人が芸能事務所の正面に一人で立ってるっておかしい?

良くてアイドルの出待ち、悪くすれば不審人物って思われてる?



予想していたよりも遥かに大きな建物にますます立ち入りがたくなってしまった
けれど、居心地の悪さにそそくさと建物の中に入った。