「あら、奏(カナエ)。おはよう。お母さんたち、あなたに話があるの。ちょっとこっちに来て座りなさい」


お母さんに言われて仕方なく、自分の椅子に重い腰を下ろす。


気が進まないことこの上なかった。


隣に座るお兄ちゃんの顔をちらりと窺うと、何か言いたげなのを無理やり押し黙らされたような、明らかに不機嫌な顔をしている。


おにいちゃんが不機嫌なことは珍しい。

少なくとも私の前では朝も昼も夜も、キラキラしい笑顔で上機嫌なのに。


不安だ。

家族が揃っていることといい、お兄ちゃんが不機嫌なことといい、何か良くないことの予兆のような気がする。




『それで、話って……?』


何より、お兄ちゃんとは対照的に満面の笑みを浮かべているお母さんが不安を加速させる。


お母さんがああいう顔して切り出すのは、大抵ろくな話じゃない。

突飛な思いつきでとんでもないことを言い出す人だから。



「実は……」


口火を切ったお母さんを前に、生唾をゴクリと飲む。


どうか、どうか悪い話じゃありませんように!



知らず知らずのうちに、テーブルの下で両手を組んでいた。




「あなたのアイドルデビューのことなの!!」


『はあっ!?!?』




ガタンッと、背後で椅子の倒れる音がした。