『……ふぅ。あのー、曲終わったんですけど……?』



歌い終えて一息つくと、自分の吐息が予想外に大きく室内に響いたことに気付く。


何でみんな黙ってるのかな?

もしかして私の歌、そんなに下手だった?


みんな深刻そうな顔をして一様に押し黙っている。



ハッ、そういえばさっきの曲ってお兄ちゃんたちのデビュー曲だけど、お兄ちゃんの所属事務所ってココとライバル関係なんだっけ?

もしかして、選曲ミスった!?




「じゃあ光くん、次はダンスしてみてくれる?」


先を促す社長さんの顔は引き攣っている。



ヤバイ!!

ライバル事務所の曲歌ったから社長怒ってる?

怒ってない?



人の考えが読み取れないのがもどかしかった。



あれだけ人当たりのいい笑顔を浮かべていた社長さんの顔が引き攣るくらいだから、何か衝撃を与えたのは間違いない。

願わくば良い方の衝撃であってほしいけど。


それがたとえどちらだとしても、社長さんはダンスという次のチャンスをくれたんだ。

ミスなら挽回を、賞賛ならもっと魅せたい。

せっかく与えられた機会を生かさないなんて、愚か者だ。



幸いにも、ダンスは自信ある。

昔、日本舞踊と新体操とクラシックバレエやってたから。


闘志にメラメラと火がついた。


もっと力強く、キレのある動きを。

時に軽やかに、女性のようにしなやかに。



そんな思いで、かつてないほど夢中で踊った。


しばらくダンスなんてしていなかったから身体がなかなか巧く動かないけど、踊っている中でも成長できたら、と。


幾多の動静を繰り返して最後のワンステップを踊りきると、すがすがしさと寂しさが同時に湧き上がった。




「合格ね!」


再び訪れた静寂を破ったのは社長さんだった。



「歌もダンスもいいけれど、一番はその度胸ね。ウチのライバル事務所所属アイドルの曲を歌うなんて、なかなか出来ることじゃないわ~。狙ってやったの?」


『いえ、ただの考えなしです……』



怒ってなかったけど、なんか自分が恥ずかしい。


いや、怒ってなくって及第点もらえたならそれでいいんだ、うん。

そういうことにしとく!