「…ハァッ…ハァ…」



走りながら校舎裏に逃げ込んだ榊は、1人校舎にもたれ、頭を抱えていた。



「…何やってんだ…俺」


小さな声が辺りに響く。


顔が熱い。

心臓がうるさい。



「っ…俺じゃ、あいつん中には入れないのかよ…」



今まであんなに頑張って気持ちを示してきたのに。

全然伝わってなかったし…。


苦しくなってどうしようもなくなって、抱き締めてしまった。

あれがやっぱまずかった。
やらなきゃよかった。

矢野は…多分気づいてる。




「入れないんじゃね?今の矢野は北坂しか見えてないから」



「…!?」




背後からムカつくやつの声。



「…小田切…」


その声を聞いて小田切はフッと笑う。



「やだなぁ…昔は純って呼んでくれてたじゃねーか。」


「…チッ」



こいつ、また俺に喧嘩売りにきたのか?


中学の頃から散々俺の邪魔してきやがって…



「そんな怖い目で見るなって。今回は俺、なんもしてねーし?」


「…ほんとかよ?矢野に手ぇ出すんじゃねぇ…」


一歩ずつ、榊に近づく小田切。




「あの子は俺が嫌がらせする必要ないし。北坂しか見えてないからさ」


「……」


「まーたそんな傷ついた顔しちゃって…」


クスクス笑ながら壁に向かって、榊の顔の横に手をつく。