「………気づけよ…」


耳元で聞こえた小さな声。

苦しそうな、弱い、切ない声。







ピシッと体に力がはいった。







うそ…

私って…鈍い…


今気づくって…相当鈍い。










榊の好きな人って…







私なんだ………。








気づいた瞬間、顔に熱気が集中した。


だが、以外にも私は自分を取り乱さなかった。

脳は至って冷静。




思われて嬉しい、とか、何で私なの、とか、考えるより先に体が動く。


榊の体を離れるようにぐっと押した。





「……ハッ………やっぱそーなるよな」


榊が自嘲気味に笑ながら言ったのも一瞬だけ。


すぐに笑顔は消えた。




「…ぁ」

勝手に声が漏れる。



今、私…榊に何した?


ふと自分の行動を思い返して、焦る。


でも、何て言えばいいかなんて分かるわけもなく…




固まっているうちに榊は廊下の角を曲がり、いなくなってしまった。













……どうしよう…。


今…私

榊をふった…?





───



「なー、祐也」


「…」


「ゆうや!!」


「ぅわっ、なんだよ…急に」


祐也と金沢は直子と近藤と別れた後、金沢の店で話していた。



「お前さ…そんな気になるの?」



「…は?何を…」


「未裕ちゃんに決まってんだろ」


「…!?」


「あ、黙るってことは図星?」


「…違う」


「嘘つくなよ、何年祐也と一緒にいると思ってんだ」

「そうだけど…、それよりも俺…変なんだよ」



「変って?」

「あんなに今まで直子のこと思ってきたのに…昨日だって直子に誘われて…」


「まぁ、結局は二人きりじゃなくて、俺と近藤も呼ばれてたけどな…」