記憶を失ったといっても、全部忘れた訳ではなかった。
本当に一部だけ。







だけど、その一部のせいで俺は[愛]というものがわからなくなった。





兄貴はなぜ俺が記憶を失ったか教えてくれない…





それでも、俺は兄貴を慕っていた。










―――――――…

「なぁ…兄貴。」

「お?」




なんで俺の過去を教えてくれないんだ?


そう聞こうとしたがやめた。

聞いたら、もう兄貴が俺を可愛がってくれない気がしたから…




「いや…なんでもない。食ったし、行ってくる。」

「気をつけてな。鍵持ったか?」


そう言われて俺はズボンのポケットに手を突っ込んで鍵があるか確かめる。


「持ってる。」

「俺、今日は遅くなるから夕飯とかは自分でなんとかしてくれ。」

「わかった。行ってきます。」



兄貴にそう言うと、俺はアパートの敷地を出て学校へ向かった。