愛してるのに愛せない



「えっと…ここ?」

「そう。そこを押えて…この指はここを押えて…」



彩は呑み込みが早く、俺が教えるとすぐに弾けるようになっていった。




「じゃあ、ここからここまで。弾いてみな?」




俺は楽譜を指差し、彩に弾くように指示する。


彩は、ところどころ間違えながらも、真剣な顔をして弾く。




「だいたい弾けるようになってきたな」

「ほんとにっ!?やった♪」




本当に彩は覚えが早い…




いや……彩は、やればできる子なんだろう…




それなら、テストの点数が俺よりも高いことも、こんなに早く弾けるのも納得できる。






「海斗…?」

「ん?なに?」



やべ…話聞いてなかった…




「だから、そろそろご飯の支度しないと…」

「もうそんな時間!?」



時計を見ると、午後の5時…



彩と居ると時間が過ぎるのが早い…




「じゃあ、今日はここまでにして、飯作るか」

「うんっ!今日は何にしようか?」

「う~ん…任せたっ!」

「えぇっ!!?ちょっ、海斗!?」

「はっはっはっ!嘘だバーカ!」

「ひどっ!」



彩は来る度に、ここで夕飯を作って食べる。

まるで彼女だ。



俺はクスクス笑う。