「…って、何で誰も突っ込まなかったのかなぁ?」

「また、んなこと言ってんのかよ?もう考えても無駄なんだから諦めろって」


朝稽古の休憩中に呟いた私のセリフに、兄貴がそう答えた。


私の家は、武術の道場をやっている。

そのせいで、必然的に私と2つ年上の兄貴は小さい頃からあらゆる武術を習わされて、今では2人揃ってほとんどの武道の有段者だったりする。


「だってさぁ。今どきあり得なくない?婚約者とかさ、何時代だよ?」

「お前、そんなに嫌なの?」

「当たり前じゃん!相手はあのハルだよ!?しかもヤクザの次期組長って。そんなとこに娘を嫁にやったりする?」

「ま、この道場だって、神宮寺のオジサンに援助してもらって改装したわけだし、うちの親は何も言えないわな」

「娘を金で売るか、普通」

本当、ため息が出る。

これ以上兄貴に愚痴を言っても無駄だし、お腹も空いたし、朝ごはんを食べに行こうとした瞬間、置いていたカバンの中で携帯が鳴った。