「あれ、姉御?三代目と一緒にもう出たんじゃないんですか?」


次の日の朝、家を出たところで、菊ノ井に声をかけられた。



「…ハル、もう出た?」


「え?ええ。てっきり姉御を迎えに行ったのかと…」


菊ノ井は不思議そうに私を見た。


「いつもの喧嘩ですか?」

「…ま、ね」



私は無理に笑って、菊ノ井の横を通り過ぎた。


歩きながら、無意識にため息が出た。

瞼が重い。


昨日、夜の間中、こっそり泣いたせいで、瞼が腫れていた。


何であんなに泣けたのか、自分でもよく分からない。

悔しいのか、悲しいのか。

ただ、隣にハルがいないという現実は、酷く落ち着かない。



「…おはよう」


教室の引き戸を開けると、クラスメイトたちに紛れて、ハルの姿が見えた。

私に気付いているはずなのに、イヤホンを付けたまま閉じた瞳を開こうとしない。


結局、かける言葉も見付からないまま、私も黙って席に付いた。