「サクちゃん、いらっしゃい。若に用事かい?」


「うん。ハルは部屋?」


「たぶんそうだと思うよ」


ハルの家、つまり神竜組の組員の中で、ハルのことを『若』と呼ぶのは一人しかいない。

ハルのお父さん、二代目組長の片腕、茂さんだけだ。

茂さんは、もう還暦を過ぎたおじさんだけど、物凄く迫力がある。

頬には大きな刃物傷があり、目付きはいつも鋭い。

でも、本当は仲間思いで優しいってことを知っているから、私はちっとも怖くない。



「サクちゃん。若は学校で何かあったのかい?」


「どうして?」


「いや、何だか元気がないような気がしてね」


「うーん。まぁ、あったようなないような…」



やっぱり茂さんの目は誤魔化せないか。


私は出来るだけ明るく言った。


「とにかく、私が何とかするから」


「そうかい?ま、サクちゃんがいるなら安心だ。若のことは頼んだよ」


「任せて。慣れてるから」


私は茂さんにオッケーのサインをしてから階段を駆け上がった。