ハルはそう言って、私の頬を思い切りつねった。


「痛っ!あんた鬼!?っていうか私が女だって分かってる?」


「あー、もう五月蝿い。さっさと行くよ」


私の抗議の声には一切耳を貸さず、ハルはするりと私の横を通り過ぎた。


「三代目、姉御、行ってらっしゃいやし。お気をつけて!」


渋々ハルの後を追う私の後ろで、菊ノ井が叫ぶ。


お気をつけてって…。
ただ学校に行くだけなんだけど…。


「ねぇ、ハル。菊ノ井っていくつだっけ?」


「さぁ。24、5じゃないの?」


「ふぅん。別にこの世界に入らなくたって良かったのに」


私はちらりとまだ手を振り続ける菊ノ井に目をやった。
人の良さそうな笑顔は、とても極道の人間には見えない。


「ま、俺も向いてるとは思わないけどね。道に行き倒れてたの拾ってやったから、そのことに恩義感じてんじゃないの?」


「でも、ハル、結構気に入ってるでしょ?」


「別に。普通じゃない?」