「サク、帰るよ」


頭一つ分低い位置で、天使みたいに可愛らしい少年が私に言った。
教室中の女の子たちの視線がやけに痛い。

ハル、神宮寺晴【しんぐうじはる】は男のくせに美人だ。

サラサラの髪も、大きな瞳も長い睫毛も、およそ女の子が欲しいと思うものは何でも持っている。
その上、なぜか大会社の御曹司という根も葉もない噂がまかり通っているものだから、学校では全女子生徒の羨望の的だ。

そして幼なじみの私、九条咲良【くじょうさくら】は、しょっちゅうハルの側にいるせいで、完全に敵対視されている。

冗談じゃないっつうの。
こっちだって別に好んでコイツの側にいるわけじゃないんですけど。

あー、もう大声で叫んでやりたい。
何が天使?
みんなコイツの正体知らないだけだよ。


「…詐欺師」

「何か言った?」


聞こえないように、小さく小さく呟いた私の一言に、ハルはすかさず反応を見せた。
全く耳悟い奴。


「別にぃ。ハル様は今日もお美しいなぁと思って」

「そんなの当然でしょ」