「まじかよ……。」
紺野は溜め息をつき言った。
イクヤは今更ながらに、俺の名前を聞く。
『深山由羽だよ』と、漢字まで丁寧に教えた。
「由羽っつーんだ。俺、郁哉♪」
「イクヤってどう書くの?」
「紙とペン…、」
いつの間にかイクヤの睨むような目は、穏やかになっていた。
なんだか、とても嬉しい気持ち。
イクヤは紙にペンで【郁哉】と汚い字で書いた。
「かっけー名前だな!」
「由羽もかっけーじゃん。」
「へへへっ♪嬉しい!」
龍は呆れるように俺らを見た。
金髪が満月みたいで綺麗だ。
「今日からお前は俺らの仲間だ。俺、風呂入るから誰かコイツ送ってけ。」
先ほどまで、情けない表情を見せていたというのに、やはり俺様野郎だ。
龍は言った通り、さっきレイが出てきたバスルームだろう部屋に入った。
俺は何度か辺りを見回し時計を探す。
奥の部屋のベッドにあった目覚まし時計の針は、午後9時を差していた。
「俺…っ、帰らなきゃ!」
ふとお父さんの顔が浮かび、勢いよく立ち上がった。
その瞬間、電流にも似た痛みが、足に走った。
「っく……、痛…。」
「由羽、俺が送ってくよ♪おんぶ、してあげるから!」
郁哉が笑顔で言った。
全く…、俺は最初から最後まで迷惑かけっぱなしだ。
